2019年8月30日金曜日

日本語教育=日本語の上達を組織的に支援する営み ─ 日本語教育者はサド&マゾ

日本語教育=日本語の上達を組織的に支援する営み ─ 日本語教育者はサド&マゾ

0.はじめに
(a)一般的に言っても、第二言語の習得は時間とエネルギーを要するがんばりと忍耐の要る企てである。
(b)また、第二言語の習得は、多元的で、輻輳的で、累進的な過程である。これを、修得する内容を特定して直線的(linearly)に企画するのは不可能
※基礎的な対面的コミュニケーションのための口頭日本語に限定した習得は特別にむずかしいわけではないが、書記日本語をも並行して習得するとなると、特別にむずかしい言語となる。(漢字系学習者にとっては、根本的に第二言語としての種類が違う。圧倒的に有利。)

1.これまでの日本語教育の企画
1−1 学習と教授と習得という用語
習得とは、「何か」を学んで、日本語が一層上達すること。※対象・対象内容を特定する「○○を習得する」というような「習得」は、本来の習得と区別して「修得」と呼んだほうがいい。
学習は、日本語の上達(ねらい)を企図して、習得(目標)も視野に入れながら、学習者が行う意図的な営み
教授は、日本語の上達を企図して、習得も視野に入れながら、教授者が学習者に向けて行う意図的な営み。

1−2 教育企画と学習活動と教授活動
・教育企画というのは、制度的文脈やステイクホルダーの期待や学習者の一般的な期待や要望などを考慮して、広義の目標(ねらいと目標)を設定するところから始まる。
(1)ねらいには、他の教育的目標が含まれることもしばしばあるが、基本的には、何らかの内容での特定のレベルまでの日本語の上達(ねらい)とその基幹となる日本語力(目標)となる。
(2)具体的な教育企画の概略は、その目標に至っていく行程と重なる。
(3)具体的な学習活動と教授活動は、教育企画の下に行われる。

1−3 これまでの初級日本語の企画=最後になったときに一挙に目標が達成される。
□ 実情
・規範的に自己同一的な形態の体系(system of normatively identical forms)、つまりラング(langue)の習得を目標にしている。
・言語活動に従事するのは基礎的なラングをすべて修得してからという考え方。
□ 批判
・こういう企画では、学習者の忍耐がもたない(何かができるようにならないことに我慢できなくなってイヤになる)。また、そういう企画は学習者の自己効力感などを考えても、ひじょうに
・ラングの各要素を修得したとしても、それは元の全体(original whole)ではない。
□ 評価
稚拙な教育企画は、有効な学習活動と教授活動を導くことができない。それどころか、阻害する。
「理不尽な」教育企画は、学習者のやる気をなくさせる
基幹的な日本語力という発想がない。

1−4 これまでの初中級・中級の企画
□ 実情
・基礎的な技量が身についているという前提で、「次」に行ってしまっている
・学習者は、基礎的な(ラングの)知識も基礎的な技量も十分に身についていない。
□ 批判
・「次に行く」のは、まったく理不尽で酷
・学習者のスタート時点の知識・能力や、次に養成するべき知識・能力が十分に検討・特定されていない。
・賢い学習者は、企画されたコースに導かれてではなく、学習素材と機会と教師というリソースを上手に活用して自分なりに日本語の上達を図っている
□ 評価
「無理」と「やたら」が顕著
・基礎的な知識・技量がない学習者は落ちこぼれる

2.新たな日本語教育の企画へ
2−1 これまでの教育企画の共通的な根本問題
(1)基幹的な日本語力という発想がない。
(2)基幹的な日本語力の発達階梯という発想もない。
(3)根本的に、学習者を日本語上達のエスカレータに乗せて、着実に上に連れて行く、という発想・強い意志がない。
□ 批判
 ひじょうに基本的な問題として、
・半数以上の学習者が達成できない目標を設定して教育課程を策定して実施するというのはどうか。
・「○○を教える」(「○○を修得させる」)という発想での教育企画はどうか。⇔ 日本語の上達は「○○を教える」(「○○を修得させる」)という発想では達成されない! 教授=日本語を教えることではない。むしろ、教授は、学習者における日本語の上達を促進する営み、とまず規定しなければならない。
※前者は、マゾヒスティック。後者は、サディスティック

※まずは、サド・マゾをやめる!! 
※そして、ノーマル(正常)の世界に戻る!! 
※ノーマルの世界というのは、着実に日本語を上達させる教育企画と教育実践の世界!

2-2 新たな企画 ─ 教育企画者の仕事
(1)基幹的な日本語力 = 表現活動能力
(2)発達の階梯
 基礎段階(N4): 助走期(N5)、離陸期、表現方法拡張期、表現方法充実期、表現方法発展期
 初中級段階(N4-N3): 進んだ対面的口頭表現力養成期(NIJのパート1会話)
 中級前半段階(N3): 口頭での知的言語養成期(NIJのパート2レクチャー)
 中級後半段階(N2): 口頭と書記の両様での進んだ知的言語養成期
  興味・関心や目的に特化した日本語力の養成期
(3)日本語上達のエスカレータ
 具体的な特定の言語活動ができるようになる(下位目標)という形での達成が可能な各ユニット、及び一連のユニットを企画する。
  
2−3 コーディネータの仕事
・企画されたコースを具体的な達成可能なスケジュールとして策定する。

2−4 具体的な教育実践 ─ 授業教師の仕事
・各ユニットの目標を着実に達成する。
⇔ 配当された時間でユニットの目標を達成できない場合は、コーディネータのスケジュールが適当でないか、授業教師の仕事が稚拙か、のどちらか!
⇔ ユニット間の「接続・移行」がうまく行かない、より適当な「接続・移行」のアイデアがある場合は、教育企画者にクレームしなければならない。

3.学習者を「惹き込む」「楽しませる」 新たな教材と授業実践
3−1 新たな教材 ─ 語学ための材料として
・テーマの言語活動の範例
・有用な言葉遣いで構成される。
・言葉遣いは有用な語彙と文型で構成される。
・語彙と文型の提出はユニットの進行で一定程度体系的で系統的になるように調整される。

3−2 学習者を「惹き込み」「楽しませる」教材 ─ 文芸作品として
・教材は、語学のための材料でありながら、文芸的な作品である。
・文芸的な作品には、モチーフがあり、ストーリーがあり、登場人物がいて、ドラマ性があり、レクチャーの内容・主張などがある。
・そういう要素があれば、学習者を惹き込み、楽しませながら、学習と教授を進めることができる。

3−3 教材と学習者のインターアクション
・文芸作品的な教材であれば、学習者はそれに「反応」(コメント)するができる。
・また、「わたしの場合は」「わたしだったら」などのストーリーとしての自己の語りを誘発することができる。
・表現活動中心という枠組みであれば、即興的なわたしについての語りやわたしの考えについての語りなどはすべて言語促進活動のためのリソースとなる。

0 件のコメント:

コメントを投稿