2020年5月12日火曜日

「書記言語バイアス」に基づく?日本語の授業

※ Zoomのことをよくご存じの方は、中程の「チャットの窓」からお読みください。

 コロナの影響で、リアル対面授業はできず、Zoom授業となっています。そして、今学期わたし担当の授業(の一つ)は、少人数の中国出身の学生だけです。こういう学生は英語では“students with kanji background”と呼びます。日本語では、漢字圏学習者や漢字系学習者となります。ぼくは、漢字系学習者のほうがいい呼び方だと思います。
 今、日本語の先生たちの間ではオンラインでいかに有効に授業を実施するかが突きつけられた大きな課題となっています。そして、この連休明けからいよいよ各大学でも日本語を含む語学の授業が始まっているようです。
 Zoomなどを使ったオンライン授業では、オンラインでいかにリアル対面の状況を再現するかという部分に関心が寄せられがちです。しかし、リアルとオンラインは、ざっくりと象徴的に言うと!「臨場感」において巨大な差があるわけで、Zoomくんにそれを期待するのは酷でしょう。(技術者さんはそういう「困難」を克服することを自らの「使命」としてらっしゃるわけですが、それはそれ。) それよりもむしろ、Zoomくんの特長(強み)のほうをよく知って、それを最大限に活用する授業を計画して実施するのがいいでしょう。そんな観点で、少人数の漢字系学生のみを対象としたZoomでの日本語授業を振り返ってみました。以下、その状況でのZoomの特長(強み)です。※以下は、Zoomのビデオ画面を開けて、実際にいじりながら読んでください。

1.オンラインの「楽さ」
 例えば1対3などだと、リアル対面だと学生はいつも先生に「包囲」されている感じでシンドイ(関西方言で、ひどく疲れる、きつい)。でも、オンラインだと「包囲」されていないので、楽。Zoom画面を通した授業を受講しながら、並行して「自分なりの勉強」ができる! ※ネガティブに言うと、「内職」ができるし、パソコンの別画面でゲームをしていても先生にはわからない。
2.ビデオ画面以外の画面① ─ 画面共有
 「画面共有」の緑枠の中で何でも見せることができる。インターネット上での検索作業と目標サイトをそのまま見せることができるだけでなく、YouTubeをも見せることができる。この共有画面は、上の緑の「画面を共有しています」という部分にカーソルをもっていくと、いくつかのアイコンが出てきて、そのうちの例えば「コメントを付ける」を選ぶと、共有された画面の上に上書きする形でホワイトボードと同じようにあれこれ書き込むことができます。
3.ビデオ画面以外の画面② ─ チャット
 ビデオ画面下の「チャット」ボタンを押すと、右にチャット画面が開きます。学生にも、ビデオ画面したに出てくる緑の「画面共有」ボタンの左にある「チャット」ボタンを押すように指示してください。
 チャット画面の一番下に「ここにメッセージを入力します」というのがあります。そこに入力をしてリターンキーを押すと、入力した文字がチャット画面に表示されます。学生も入力することができます。この要領で、学生とチャットができるわけです。「チャットの窓」は拡大縮小、自由です。
 また、「ここにメッセージを入力します」の上の「ファイル」というボタンを押すと簡単ファイルを送ることもできます。このファイルは「チャットの窓」に表示されて、向こうにいる学生も入手・ファイルオープンすることができます。もちろん、本来は、必要なファイルはあらかじめ送って学生にスタンバイさせておくべきですが。

 で、ぼくが注目するのは3の「チャットの窓」です。

 言うまでもありませんが、「チャットの窓」を利用すると、ビデオ画面でしゃべりながら、「チャットの窓」でもコミュニケーションができるわけです。要は、二元コミュニケーションができるということです。そして、これも言うまでもありませんが、漢字仮名交じりでも、漢字でも、ひらがな/カタカナでも、ローマ字でも、英語などでも、ワープロ入力できるものは何でも入力できます。もちろん、授業前にあらかじめ入力しておくこともできます。

 で、表題の「書記言語バイアス」に基づく?日本語の授業×少人数の漢字系学生のみの日本語授業で考えたこと。
 「書記言語バイアス」Written Language Bias”というのは、北欧のバフチン学はの中心人物の一人であるLinellの本のタイトルです。書記言語バイアスというのは、これまでの言語に関する研究があまりにも偏向(bias)的に書記言語を材料にした/書記言語と言語そのものとイメージした研究に片寄りすぎて、言語=ことばの本来の姿を研究者自身にもまた一般人にも「見失わせている!」と批判しての言葉です。もう少し言うと、ことばはもともと現実の生きる活動の現場で生まれ、その現場での活動を運営することに携わるという形で存在していたわけです。そして、今も。そして、それ以外のさまざまなことば=言語は間違いなくそうした様態のことばから「派生」してきたわけです。にもかかわらず、わたしたち(研究者も一般人も)はそれを忘れて、ことば=言語をその書かれた様態においてイメージすることにあまりにも慣れてしまって、書かれた様態のことば=言語がさも常態であるかのようにことば(=言語)を使っています。こんな話をすると、外国語教授法を勉強した人は「speech primacy(音声言語第一主義)」という言葉を思い出すでしょう。まあ、speech primacyと関わってはいますが、Linellの話はもっと「深いい話」です。
 で、ぼくは、少人数の漢字系学生のみの日本語授業にあたって、この書記言語バイアスを敢えて逆手に取りたいと思いました。つまり、漢字系学生の指導を考えると「書記言語こそ第二言語の促進基だ!」と主張します。そして、先の二元コミュニケーションで言うと、「チャットの窓」がその促進場所になります。

 はい、急いで結論に行きます。
※以下は、学生は「日本語ワープロを少しなりとも使ったことがある」との前提です。しかし、実際には「入力を日本語に切り替える」をしたら、以下のことができます。

結論
─ 「チャットの窓」を第一の窓と考える。
【貯え学習】─ 「チャットの窓」に語や句やディスコースをに入力する。そして、学生にも同じものを入力させる。そのときには、第二の窓であるビデオ画面から、指示をしたり、語や句やディスコースの音声提示をしたりする。
─ 「分からない」がおおむね生じない範囲でこれをするのがいいですが、「分からない」が生じたときは、さっさと媒介語で処理。あるいは、「自分で今調べて、チャットに報告して!」でいい!
─ そのような要領で、語や句やディスコースを学び、蓄積していく。第一の窓である「チャットの窓」と第二の窓であるビデオ画面は、前者がテクストの世界、後者が(画面がありながらも)音声の世界。この二人三脚で日本語を蓄積していくということ。
【形成的学習】
─ 次に、当該のテーマについての学生の話を第二の窓のやり取りで引き出しながら、第一の窓(チャットの窓)にキーワードを書き出してあげる。
─ 一通り話したら、チャットの窓に書きだしたキーワードを参考にしながら、もう一度整理して第二の窓(ビデオ画面)で話す。
─ この後は、それを作文にして提出など、適宜に。

 漢字系学生の場合は、漢字(テクスト、第一の窓)を見ればだいたい意味がわかる!しかし、それを適切に音声言語化(音声、第二の窓)できない、という点がキモです。ああ、この点がまさにWritten language biasですが。それを逆手に取る!!

 このアイデア、うまく伝わったでしょうか。そして、実は、このZoomの特長(強み)を活かしたアイデアは、非漢字系学習者の場合でも、実は大いに使えると思います。


 
 

 
 

 
 


0 件のコメント:

コメントを投稿