2018年12月8日土曜日

日本語教育実践の再生:表現活動中心の日本語教育を創造するNEJとNIJ ⑧

♣2 教材② ─ 「透明なディスコース」とルビや語釈、及び文法説明

テクストの難易
 NEJでもNIJでも、新しいユニットでは、学生にとって初めての語や言葉遣いが出てきます。また、NEJのナラティブやNIJのレクチャーでは比較的長い文が現れ、ディスコース全体もかなり長いものとなります。ですので、それらのテクストは一見むずかしいように見えます。しかし、実際にはそれらは見かけほどはむずかしくはないと思われます。と言うよりむしろ、むずかしくないように作成しています。

「透明なディスコース」
 NEJやNIJでは、本文のテクストの作成において、「透明なディスコース」になるように心がけました。「透明なディスコース」というのは、語や言葉遣いがわかりさえすれば、全体の意味を捕捉できるディスコースです。
 本文のテクストの作成にあたっては、もちろん新出の語や言葉遣いの量を適量に調整し、新出あるいは未習熟の文型・文法などの数も適量に調整したわけですが、その他に、テクストが「透明なディスコース」になるように以下のような工夫をしました。
 (1) 全体を一つのまとまりのあるディスコースとして作成すること
 (2) 論理を素直に自然に展開すること
 (3) 結束性をしっかり維持すること
 (4) 論理を混乱させるような余分な要素は入れないこと
 このような工夫をすることにより、NEJやNIJのテクストは充実した内容がありまがら、ディスコース的にはかなり「透明」になっていると思います。
 「透明なディスコース」にこだわるのは、教材の本文というのは基本として日本語を育成するためのリソースであって、そのような本文が「わからない」というのでは、日本語を育成するためのリソースにならないからです。NEJやNIJのテクストは、聴解教材や読解教材ではありません。日本語を理解し経験し摂取してもらって、日本語を育成するためのリソースです。

ルビと語釈、及び文法説明
 漢字仮名交じりでテクストを提示した場合に、学生にとってハードルになるのが漢字の読み方です。NEJとNIJでは、そのようなハードルを取り除くために必要な範囲のルビを付けています。ただし、ルビを隠して読めるように、いずれにおいても下ルビにしています。また、ディスコースの透明性を確保するために、むずかしいと思われる語や言葉遣いや文法については媒介語で語釈を付けています。このような配慮を施すことで、NEJやNIJのテクストは一層「透明」になっていると思います。
 一方で、見知らぬ言語の文法というのはしばしばわかりにくく、語釈だけでは理解できない場合があります。そのようなケースにNEJでもNIJでも一定の対応をしています。NEJでは、説明が必要と思われる文法について、各ユニットでGist of Japanese Grammarという欄を設けて、媒介語で解説をしています。また、NIJでは、Grammar Notesで、受身、使役、〜ていく、〜てくる、意志形の表現というどのようなディスコースでも出現しがちな5つの文法について解説し、さらに、3ユニット毎にGrammar Summaryを設けて3つのユニットで頻出した文法を整理しています。
 NIJは現在のところ、英語版しかありませんが、NEJは、英語版と中国語版とベトナム語版があります。

その他の付属教材
 NEJとNIJには、ユニットの学習を一定程度進めた上で、文型・文法の定着を図る教材や、漢字学習のための教材や、各ユニットの復習のワークシートなどが付属しています。また、音声素材は、くろしお出版のウェブサイトで公開されています。NEJもNIJも、「この1冊さえ購入すれば全部揃っている」というオール・イン・ワンの教材です。

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