以下、主として入門・基礎の習得と教育をイメージして話します。 第二言語による言語技量は、言語事項や文の作り方などのラングの知識を蓄積することで はなく、現在の自身の言語技量を少し上回る発達的言語活動従事を通して涵養されます。 発達的言語活動従事や第二言語の習得に関連してラングの知識について改めて考えてみる と、ラングの知識にはコアな知識とペリフェラルな知識(peripheral knowledge)があるよ うに思います。とりあえず入門基礎の段階で考えると、新しい言語としてコアな知識を形 成するのは、端的に、名詞でしょう。そして、入門期でそうしたコアな知識の形成として 扱うべき名詞は、学習者が入りやすいカタカナ語です。ただし、カタカナ語を表記も含め て教えるということではありません。カタカナ語をオーラルの語として教えるのです。そ れに適当な語としては、(1)外国の国名・地名、(2)名の通っている日本の地名、(3)外来語 で言われる食べ物・飲み物、(4)スポーツや音楽、(5)衣服や装飾品、(6)家電製品・電子機 器及びその周辺機器、などです。なぜ、それらが入門期に適当なコアな知識なのでしょう。 それは、それらの言葉をアンカーとして思考が拡がって、その延長にペリフェラルな語を 載せることができるからです。例えば、NEJのユニット3のUseful Expressions(p.41) を見てください。1では食べ物、2では飲み物、6ではスポーツ、7では音楽関係の語が それぞれであげられています。例えば、1の食べ物をイラストを示しながら言う練習をし ます。「パン! サラダ! フルーツ! ヨーグルト! トースト! ベーグル! クロワッサ ン! サンドイッチ!」となります。これで日本語の語彙を8つ知ったことになります。こ れらの言葉を言っていると、自ずと「パン!<(を)たべます>」「サラダ!<(を)たべ ます>」、「フルーツ!<(を)たべます、(が)すきです!>などと思考が拡がるでしょう。 そうなると、これらの名詞の概念の延長として、多少のジェスチャーも交えながら、「パン (を)たべます」「サラダ(を)たべます」「フルーツ(を)たべます」「フルーツ(が)す きです」のようにペリフェラルな語を載せて指導を展開することができます。そして、教 師が「フルーツがすきですか?」と尋ねると、短いながら発達的言語活動従事に入ること になります。このようにコアな知識を橋頭堡として、そこから発達的言語活動従事を滋養 的に展開するというのは、入門基礎段階で重要な学習活動であると思います。 で、媒介語の使用について。これらの広義の外来語を教える場合は、もともとの語を素直 に提示するとよいと思います。例えば、「サラダは、salad、フルーツはfruits、ヨーグル トはyogurt、サンドイッチはsandwich」となります。そのように対比的に示すことで、日 本語の音節構造を身につける重要な機会になります。 入門の学習者というのは、いわば日本語の言葉を何も知らないわけです。入門学習者が早 い時期に日本語の言葉を一定量知ることは、日本語学習を容易にするためにとても重要で す。入門期を担当する教師は、シラバスやスケジュールに関わらず?、上の(1)から(6)の ような語に注目して、学習者に日本語の言葉を教えて、さらにペリフェラルな言葉も増や していくというような日本語滋養的な活動を積極的にするべきでしょう。
日本語教育、日本語教育学、第二言語教育学、言語心理学などについて書いています。 □以下のラベルは連載記事です。→ ・基礎日本語教育の授業実践を考える ・言語についてのオートポイエーシスの視点 ・現象学から人間科学へ ・哲学のタネ明かしと対話原理 ・日本語教育実践の再生 ─ NEJとNIJ
2018年4月22日日曜日
羅針盤:言語活動従事とラングの知識 - コアな知識とペリフェラルな知識(201611)
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