2018年4月22日日曜日

羅針盤:ぐずってぐずぐずしている場合じゃない!(201711)


羅針盤にはあまりふさわしい話ではないかもしれませんが…。このフォーラムを購読して
くださっている皆さんはすでにご承知のように、ぼく自身は明らかに日本語教育の革新、
日本語教育学の革新をめざして日々仕事をしています。フォーラムを読んでいる皆さんも
同じようなスタンスだと思います。その一方で、日本語教育の世界には、(1)はっきりと
した主義主張がある場合であれ、(2)「何となく」であれ、あるいは(3)単に今やっている
ことを変えたくないという理由であれ、(4)現状ではいけないと思うが変えるのがこわい
ということであれ、現状を変えようとしない・変えたがらない人がいます。以下、それぞ
れの人たちについて論評します。

(1)の人たち
(1)の人たちは自身がやっている教育実践を肯定している人、あるいはそれに満足してい
る人です。この人たちについては、まずは、それ以外の教育実践の方法を知っているかど
うかが問題になります。それ以外を知らないのであれば、単に「おめでたい人」です。そ
れ以外を知っているが現在自身がやっているアプローチや方法がいいと思っている場合
は、まずは「本当に『知っている』と言えるほど知ってるの?」と聞きたくなります。
「それ以外を一応知っているが詳しくは知らない」というのは、専門職の場合の「知って
いる」にはなりません。結論として、この種の人たちは、「それ以外を知らない人」(純朴
な?人)、「それ以外を知ろうとしない人」(専門職とも認められない、お勉強が嫌いな
人・できない人)となります。ただし、ご自身の研究方面のお勉強は抜け目なく?して
ことはよくあります。

(2)の人たち
まあ、このタイプの人たちは、ご自身でもご自身のことを「専門職」とは見ていらっしゃ
らないでしょう。「何となく」であまり深く考えていらっしゃらないわけですから。「専門
職になろう!」とお決めになってから話をしたいです。

(3)の人たち
自身のことを専門職と思っている人でこういう態度の人は、専門職と思うのをやめてほし
いと言いたい。この種の人は、今やっていることを変えたくないので、別の教育実践の方
法を知ろうともしません。まあ、言ってみれば消極的な「保守」ですね。今はどんな領域
でも専門性は日進月歩です。30年前、40年前と何の変わりもない「(日本語を教える)専
門技量」(←専門技量と言えるほどのものとも思えませんが)を身につけて、その技量で
職業的な生涯を過ごせるなんて思うことが、そもそも専門職失格です。まあ、この人たち
も、(2)と同様に「出直してきて!」ですねえ。

(4)の人たち
(4)の人たちは、端的に現状では「日本語教育者はいい仕事ができていない」と認識して
いるが、「現在」を捨てて「新しい船」に乗ることをためらっている人です。この種の人
たちは、現状ではだめ、現在の船はポンコツで今にも沈みそう(もう沈んでる?)と思っ
ていて、船を乗り換えなければ!と思っている。そして、そこに「新しい船」が助けに来
てくれた。しかし、その新しい船が「古い型の船の新造船」ではなく、形状も動力も操船
方法もこれまでのものとは異なる。それで、「わたしが乗組員の一人になって操船できる
だろうか」そして「(実験室から出てきたばかりの?)新型船だからまだいろいろと問題
があるのでは?」とビクビクしているわけです。この人には、「今乗っている船が今にも
沈もうとしているのに、『操船できるかしら』なんて言ってる場合ですか! 早く、あなた
もあなたのお客さん(学習者)といっしょに乗り換えなきゃ! そうしないと、あなたも
あなたのお客さんも、溺れてしまうよ!」と言いたい。表題の「ぐずってぐずぐずしてい
る場合じゃない!」はこの人たちへの言葉です。

(4)のところで「あなたとあなたのお客さん(学習者)ということを書きました。ぼくが
日本語教育の改革をしたいのは、別にせんせいたちのためではありません。「お客さん」
である学習者のためです。他の職種で新しい知識や技能を身につけないのは、それはご本
人の自由です。ご本人だけがそのことの結果を引き受ければいいのですから。しかし、教
えるという仕事をしている場合は、その向こうに学習者がいます。せんせいが新たな知識
や技能や方法を知って身につけないと、学習者の「不利益」が続きます。つまり、革新の
利益が得られない。このように、教育のアプローチや、教科書や、授業がポンコツのまま
だと、いちばん「デメリット」を被るのは学習者です。上の(1)から(4)の人たちは、自分
たちの仕事をそのように見ているでしょうか。古いカリキュラム、教科書、教授方法で仕
事をしていらっしゃるのを見ると、エンジンは旧式で馬力がなく老朽化して調子も悪く船
底は穴だらけで海水がジャンジャン入ってくるポンコツ船(カリキュラムと教科書)を、
何とか沈まないようにしながら動かしているというふうに見えます。そして、そんなふう
に手も顔も油で真っ黒になって汗だくで働いている自身を見て「いい仕事してる!」と思
っている人も多いように思います。確かに「奮闘」しています。でも、…。

「いい仕事してますねえ」というのは、「なんでも鑑定団」という番組で鑑定に出された骨
董を見て鑑定者中島誠之助が思わず口にした言葉から流行したものです。そのように「い
い仕事をする」というのは、(作品として優れた産物や)結果を出すことです。仕事に「奮
闘」することではありません。中島誠之助さんは、泥だらけで汗ずくになって仕事をして
いる陶工を見て「いい仕事してますねえ」とは決して言わないでしょう。「いい仕事」とい
うのは優れた結果を出す仕事です。ポンコツ船の乗組員はやめて、新型船の乗員になれば
いいのにねえ。

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